「セブンイレブンの真実 鈴木敏文帝国の闇」

セブンーイレブンの真実―鈴木敏文帝国の闇

セブンーイレブンの真実―鈴木敏文帝国の闇


業績好調なセブンイレブンの裏側を暴くという趣旨の本。


先日セブンイレブン絡みで値下げ制限に関して独禁法違反を認める地裁判決が出たので(http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/110915/trl11091518170008-n1.htm)、訴訟の背景理解のため読んでみました。


業界最大手の企業の問題点、特にロスチャージ問題(加盟店がセブンイレブン本体に支払うロイヤリティについて、廃棄ロス分も、売上として計上させ、ロイヤリティ算出の基礎に入れさせている問題。この結果、ロイヤリティが高くなる。また、この本によれば、実際に店で売れた分は利益のみに対してロイヤリティ率を掛けるが、廃棄ロス分は仕入額全額にロイヤリティ率を掛けて計算するため、「廃棄が多いほうがセブンイレブンが儲かる」仕組みになっている、という)に果敢に切り込んだという姿勢は評価されるべきと思います。


また、ドミナント戦略など、いろいろとコンビニ業界の裏事情が説明されていて、実態の一端が知る事ができて面白かったです。


しかし残念ながら、全体的に、店長等の話だけが根拠になっている批判も多く、やや感情的で、数字の裏づけや事実への突っ込みが今ひとつ浅い印象。


また、本筋からははずれますが、あまりにひどいと思ったのは、本書のあとがきで紹介されていた、「加盟店の店長が、『見た目の大切さ』についてアルバイト従業員を教育するため、たまたま店で立ち読みをしていただけの不良風の格好をした少年について、『万引きをした』等と言って*1警察を呼んだところ、少年は『何もしていない』と潔白を訴えたのに、やはり警察は少年ではなく店長を信じて少年を叱った」というエピソード。


「叱った」とか軽く書いてますが、万引きして警察呼ばれたら少なくとも前歴つきますし、もし私立学校に通っていたら停学・退学もあり得る。自分だったら間違いなく人間不信に陥るだろうし、この少年の人生に強い悪影響を与えうる行為です。彼は何もしていない、まさに冤罪なのに。冤罪を作らないというのが一つの存在意義である弁護士としては、極めて悪質な行為で、強く憤りを感じました。


もし本当の話だとすれば*2、このありえない店長の倫理観・品性が最低であるのはもちろんのこと、このような犯罪的な不愉快極まりない話を、しれっと軽く紹介する神経も信じられない(一応「タチの悪い強引な教育であるし、少年の人権無視であるが・・・」とのフォロー(?)はしているが、そんな一言ですむ話ではない)。他の書評とか見てもこの点を突っ込んでいるものは皆無でしたが、私としては、コンビニ業界の実態よりも、この本で一番怖いと思ったのはここでした。


この話は、「このように世の中の本質はイメージや見た目が重視されるから、加盟店の店長がいうことよりも、セブンイレブン側がいうことのほうが信用されるのだ」といった文脈で紹介されていたが、そんなことをする店長を信用できるわけないだろ・・・、とツッコミたくなりましたし、本の質についてもまた然りかと思います。

*1:厳密には、本書中では「悪さをした」と言って警察を呼んだと誤魔化して書いてますが、そんな抽象的な言葉で警察は来ません(必ずなんの被害にあったのか聞かれる)ので、おそらく「万引きをした」等と言ったのでしょう

*2:かなり唐突にわざわざ挿入しているエピソードなので、たぶん本当に加盟店店長から聞いた話の中でインパクトがあるものを入れたのだろうと推測しますが、もし嘘だとすれば、他の箇所で引用されている加盟店店長の話等も怪しいということになり、この本全体がほぼ取材に依拠しているので、そもそも本全体が怪しいということになります。