人気作家が自炊代行業者を提訴

ご存知の方も多いかと思われますが、ここでいう「自炊」とは、ご飯を自分で作ることではなく、紙の書籍を裁断してスキャンし、電子データ化してパソコンや携帯端末等で読めるようにする行為の事。

本や漫画もスペースを取るので、電子データ化すると省スペースになりますし、持ち運びにも便利なのです。

この「自炊」自体は、私的使用による複製として、著作権法上適法なことに争いありません。


ただ、自分できちんとキレイに本を裁断して、スキャンするのは意外とめんどくさい。

そこで現れたのが、「自炊」を他人に代わって行う「自炊代行」業者。
1冊100円やそこらで「自炊」をしてくれます。

ニーズは非常に高く、この1,2年で100以上の業者が参入しているようです。


今回の訴訟は、作家や漫画家が、この自炊代行業者に対して、自炊行為の差し止めを求めた、というもので、注目に値します。

http://sankei.jp.msn.com/life/news/111220/bks11122019150000-n1.htm

紙の本を私的に電子書籍化する「自炊」を請け負うサービスは著作権法に違反するとして、漫画家の弘兼憲史さんや作家の東野圭吾さんら7人が20日、代行業者の「愛宕」(川崎市)と「スキャン×BANK」(東京都)に自炊行為の差し止めを求める訴えを東京地裁に起こした。原告側によると、自炊行為をめぐる提訴は初めて。

 訴状などによると、2社は著者らの許諾を得ずに、不特定多数の利用者から1冊当たり90円から数百円の料金で本の電子化を請け負っていたという。著作権法では私的使用による複製は認められているが、原告側は「業者が大規模にユーザーの発注を募ってスキャンを行う事業は、著作権法上の複製権の侵害に当たる」と主張。「電子書籍市場の形成を大きく阻害しかねない」と訴えている。愛宕は「訴状が届いていないのでコメントできない」、スキャン社は「担当者がいない」としている。


(本件のまとめをしているサイト等)

・IT Media (提訴した作家らの会見等)
http://ebook.itmedia.co.jp/ebook/articles/1112/20/news100.html

佐藤秀峰 漫画OnWEb (自炊代行は違法ではない)
http://mangaonweb.com/creatorDiarypage.do?cn=1&dn=32817 

・福井健策弁護士(作家の弁護団の一人)の自炊代行に関する見解
http://internet.watch.impress.co.jp/docs/special/20100917_393769.html

・Tablog (メディア畑の方のブログ。「自炊代行業者を提訴する作家の偽善」)
http://blog.livedoor.jp/tabbata/archives/51228444.html



(個人的な見解)

訴状等を読んでいないので何ともいえませんが、法律的には、著作権法30条1項の解釈が争点になるだろうと思います。


第30条 著作権の目的となつている著作物・・・は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる。 ・・・以下略


つまり、本(著作物)を買った人が、自炊代行業者をして、その著作物を裁断し、電子データ化させること(=複製すること)が、「(著作物を)使用する者」による複製といえるか、ということです。

作家側は、代行業者による自炊は、「使用する者」自身による複製ではないので、著作権法30条に当たらず違法であると主張するでしょう。

他方、自炊代行業者側は、あくまで「使用する者」による複製の作業を代行しているだけ(「使用する者」の手足となっているだけ)であるので、著作権法30条が適用され、適法であると主張するでしょう。


使用する者による複製という行為にどこまで含まれるか、というのは、多分に解釈による部分が大きく、著作権法の趣旨や、自炊代行業者による代行過程の実態等から総合的に判断していくことになると思います。
裁判所がどう判断するか、裁判の行方に注目です(とはいえ、訴えている側が大手出版社をバックに控えた作家達で弁護団著作権の専門家を含めた大物を揃えているらしいのに対し、訴えられている側はまだ出来て間もないであろう中小企業である自炊代行業者2社ですので、そうそう応訴する余裕もなく白旗をあげてしまう可能性もあると思いますが)。