アメリカのローファームと日本の法律事務所の違い④(弁護士報酬)

アメリカのローファームと日本の法律事務所の違い①(業務の専門化)
http://d.hatena.ne.jp/shinmai-lawyer/20120105/1325718795

アメリカのローファームと日本の法律事務所の違い②(組織と経営)
http://d.hatena.ne.jp/shinmai-lawyer/20120107/1325866433

アメリカのローファームと日本の法律事務所の違い③(プロボノ活動)
http://d.hatena.ne.jp/shinmai-lawyer/20120110/1326142496


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これはよく言われていることだと思いますが、一般的に、アメリカの、特に大手のローファームは、弁護士報酬が高いです*1


これはあくまで感覚ですが、タイムチャージの場合、シニアクラスのパートナーですと1時間あたり800〜1000ドル以上、通常のパートナーで700〜1000ドル、シニアアソシエイトで500〜700ドル、ジュニアアソシエイトで300〜500ドル程度の範囲の場合が多いように思われます(もちろん場合によりけりです。弁護士報酬の幅は事務所によって、また弁護士によって、非常に広いです*2*3)。


また、弁護士報酬は年々上昇する傾向にある(あった)ようです。


このように弁護士報酬が高い(ことが許容される)理由としては、ひとつには、アメリカは訴訟社会で、懲罰的損害賠償制度もあり、訴訟で負けた場合のリスクが大きいことから、いざ訴訟をする場合の費用はもちろん、紛争を予防するための費用(例えば契約締結段階からしっかり弁護士に確認したり、コンプライアンスのチェックのため日常的に弁護士に相談する等)が必要なコストであるとの社会的な認識があることが挙げられるかと思われます。特に、アメリカの場合、訴訟になると、ディスカバリーという広範な証拠開示制度があり、ケースによってはダンボール数十箱(あるいはDVD何十枚)もの資料を分析して検討しなければいけない場合もあり、膨大な時間と費用がかかるため、できる限り訴訟を避けるというインセンティブは大きいように思われます。


また、アメリカでは各州ごとに独立の法律や裁判所がある*4ことから、問題が複雑になりやすく、州や国をまたいでビジネスをする企業等は、多少の費用を支払ってでも、色々な問題に対処できる専門家が多く所属するローファームに頼むしかないといった事情もあるのかなと推測します。


一説によれば、アメリカには80万人の弁護士がいるところ、彼ら(彼女ら)がアメリカのGNPの実に3%を稼ぎ出しているそうです*5


ただ、さすがにこれだけ弁護士報酬が高いと、特に昨今の不況の中では、クライアントからの値下げ圧力も強いようです。特に、まだ司法試験も合格していないようなfirst Year Lawyerや実務を知らないsecond year lawyerに高い報酬が支払われるのを嫌い、弁護士と契約する際に“no-first-or-second-year”provisions(そのクライアントとの間では一年目や二年目の弁護士は使いませんという条項)といった文言を盛り込む場合もあるのだとか*6。他方で、優秀な人材をアソシエイトとして確保するために、契約金として25万ドルもの金額を支払う場合もあるとのことですし*7、ローファームも大変ですね。


事務所によっては、値下げ圧力への対応として、アソシエイトの分類を明確化したり、定型的な文書レビューを専門とするStaff Attorneyを雇って必要に応じて使い分ける等して、コスト管理及びコストの透明化を図っているところもあるそうです*8


日本の大手法律事務所も同様、今まで以上に、コストを管理し、また透明化する努力をしていかなければならないだろうと思われます。他方で、紛争防止やコンプライアンスのために(クライアントにとって)必要な費用については、きちんと説明して、納得してもらう努力も重要でしょう。





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*1:ただし、今はかなりの円高ですので、日本企業にとっては、アメリカのローファームをretainするコストは従来よりはかなり低くなっており、場合によっては日本の大手法律事務所を使うのとあまり変わらない位かも知れません。

*2:http://en.wikipedia.org/wiki/Attorney's_feeウィキペディアにわざわざAttorney's feeという項目があること自体興味深い

*3:また、日本と同様、弁護士報酬の取り方自体、タイムチャージ以外にも、完全成功報酬型や、着手金+成功報酬等、色々あります。http://public.findlaw.com/library/hiring-lawyer/fee-types.html

*4:例えば、アメリカで、ある企業が州に定期的なレポートを提出する場合、アメリカ国内の企業であっても、違う州を本拠地とする場合には、「foreign company」の扱いになります。それくらい、州ごとの独立性が強いのです

*5:一次資料が入手できなかったため、受け売りの受け売りです。しかもちょっと古い(1987年?)の情報のようです。大嘘だったらごめんなさい。http://www.idea-law.jp/sakano/blog/archives/2011/12/21.html

*6:http://blogs.wsj.com/law/2009/12/09/legal-heavies-tackle-the-first-year-associate-dilemma/?utm_source=feedburner&utm_medium=feed&utm_campaign=Feed%3A+wsj%2Flaw%2Ffeed+%28WSJ.com%3A+Law+Blog%29&mod=smallbusinesshttp://ameblo.jp/nftx/entry-10408185122.html

*7:http://www.nytimes.com/2010/09/07/us/politics/07clerks.html?_r=2&scp=2&sq=liptak&st=csehttp://uslawschoolfromjapan.blogspot.com/

*8:http://blog.livedoor.jp/llanelly/archives/51228185.html